コミュニケーション・ラボ「i」
《緊張》
〇早わかりまとめ
《緊張する原因》
公的自己意識との関係 : 他人にどう思われているかを気にすることが緊張につながる
《解決策》
1.相手に意識を!自己意識を減らそう!
①相手に関心を持とう。②相手にGIVEしよう
2. 自己の客観視を通したポジティブ思考
自分の状況を客観視することで、今まで自分が他者からの見られ方を気にしすぎていたことに気づく
【なぜ緊張するのか?】
「大学に入学して1ヶ月!友達がたくさんできたけど、この子と2人きりは初めてだ…何か緊張するなぁ…」
こんな経験ありませんか?
日本人の多くが知り合って間もない友達と話す時、どきどきしてしまうと思います。実は、全く知らない人よりも親しいわけではないが面識はあるという相手への方が緊張しやすいのです。 (小林哲郎・高石恭子・杉原保史, 2000年)
ジンバルドー博士(1982)の実験データによると、日本人の60%が対人関係において不安を感じているようです。
(木村 駿, 1990)
そんな自分をネガティブに感じてしまっているあなた!!!
まずはどうして私たちが緊張するのか、その原因を探ってみましょう!
【人前で緊張してしまう原因】
公的自己意識、私的自己意識との関連
→公的自己意識とは、他人にどう思われているかを気にすること (容姿、髪型などの外面)
→私的自己意識とは、自分自身がどうありたいかを考える事が多いこと (自身の感情などの内面)
を言います。
菅原健介(1984)の研究データによると、対人関係での緊張は公的自己意識と関係しています。(川島達史, n.d.)
※公的自己意識の強い人全員が対人不安を覚えるわけではありません。
公的自己意識が強いと拒否されることを恐れ、賞賛されることを好むため、
〇 相手に退屈だと思われていないかな
〇 嫌な思いをさせていないかな
〇 相手に良い印象を持たせたい
などの感情を持ちやすくなり、それが不安や緊張に繋がります。
人は誰でも公的自己意識を少なからず持っているため、緊張すること自体はごく普通のことです。それでも、人との会話における緊張を少しでも減らせたら嬉しいと思いませんか?
ここでは2つの解決法をご紹介します。
【緊張を減らす解決策】
解決策1.相手に意識を!自己意識を減らそう!
まず対人コミュニケーションにおいて緊張している人の特徴として自分自身のことを考え過ぎてしまうことがあげられます。ではどのようにすれば解決できるのでしょうか…?
①相手に関心を持とう
→自分のことを考え過ぎてしまうことが、緊張する理由の1つです。まずは相手に意識を向け、そもそも自分が相手に対してどのような感情をもっているのかを会話を通して考えてみましょう。コミュニケーションにおいて大切なのは相手中心になることです。(清水栄司.2019)
(そうすることで相手に意識が向き自己意識が減り緊張が軽減されます!)
自分から相手に関心を寄せ、関心をもって話を聞いてあげることが大切です。
相手に関心をもつことにより初めて相手から関心を持たれます。
そして人は自分に関心をもってくれる人に好意を抱くのです。(木村 駿.1990)
→相手のことを知りたい、仲良くなりたいという気持ちを持ち、相手に対してポジティブな姿勢を持つことで自然と自分に向いていたベクトルが相手に向くようになります。
・公的自己意識: 相手が自分をどう思っているか考えること→緊張が増す
ex.) つまらない人だと思われてないだろうか・・
相手に関心を持つ:自分が相手に抱く感情を考える→緊張が和らぐ
ex.) この人のこともっと知りたい!
(平松琢弥.2007)
②相手にGIVEしましょう
→相手に聞きたいこと、知りたいことを考えましょう
まずは質問をし、それを通して相手の長所をみつけ、『褒める』など相手を喜ばせようという気持ちを持ちましょう!褒められて嫌な人はいません!また人は自分のことを肯定してくれる人に心を開きやすいです。褒め上手になって友達との仲を深めましょう!
では次に緊張をしている人としていない人では実際にどのような違いがあるのでしょうか?
文献で挙げられている内容が実際の場面でどのように表れているのか、テレビとYoutubeを通して様々な芸能人の方々を観察し、その特徴をまとめてみました。
【緊張している人の特徴】
〇 笑いながら話す
→緊張を隠したいという気持ちの表れです。
しかしこれはときに、ヘラヘラしている、真面目に話しているのかなどとマイナスなイメージを与えることがあるので注意が必要です。
〇 回答が一言で終わってしまったり、相手が話しているときの反応も疎か
→ ex) あー、えー。
緊張している人の多くは相手を見ることも少なく、頷いたり微笑んだりするだけの場合が多いです。これは自分のことで精一杯になっており相手の話を聞く余裕がないことが理由です。
〇 完璧な会話を求めすぎている
→相手に自分のことを少しでもよく見せたいため完璧主義になりすぎている傾向があります。
ex) 無茶ぶりに答えない
→失敗をして相手になにを思われるのだろうかという不安から失敗したくないと考える多くの人は「〇〇やって〜」などという流れを苦手とします。これは時にノリが悪いなど、相手に悪い印象を与えてしまうこともあります。
〇 自分の体裁を気にしすぎてしまう
→自分のマイナスポイントを見せない、ネガティブな部分を言うときは黙る、などと自分を守ろうとする姿勢がいです。
(木村 駿.1990)
【緊張していない人の特徴】
〇 話す内容が自分の得意分野の場合
→話すことに詳しいため自信がつき緊張が少ない
〇 自分よりも相手に関心を持っている
→先ほどの解決策にも述べたように緊張していない人は話す相手に関心を持っています。そのため質問をし返したりと返報性が高いので相手も話しやすく会話が続きやすいです。
〇 自分の感情を伝える
→あらかじめ自分は緊張している不安など自分の感情を相手に伝えることで、1人で緊張している気持ちを抱えこまないため緊張が和らぎます。
〇 反応が大きい
→話し手にとって相手の反応が大きいと、相手は自分の話を楽しんでくれていると感じ会話をすることを楽しんでくれます。
(小林哲郎・高石恭子・杉原保史.2000)
総合的に、、
緊張している人は自分のことばかり気にしすぎていて自己保身の言動が多い
↕
緊張していない人は自分の感情に素直でそれを表に出し、なおかつ相手に関心をもつ余裕がある
という特徴があります。あなたはどちらの言動が多く当てはまりましたか?
解決策2.自己の客観視を通したポジティブ思考
〇トラウマなどにより自分に否定的な感情を持っている。
〇自分が人に対する苦手意識を持っているために、相手も同様に自分に否定的な感情を持っているのではないかと思う
。
このような状況にあなたは当てはまるでしょうか??
→こうした人々は他人からの評価が自分の価値になっている可能性が高いです!!
コミュニケーションを取っている時も相手そのものに関心を向けるよりも、相手から見える自分はどう思われているのかなと自分に対して関心を向けてしまいます。
そのため他者が求める理想を自分の理想だと思い込み、他者から嫌われないようにその理想を追い求めようとします。そうした自分の理想と現実のギャップに悩んでしまい、よりコミュニケーションに対して恐怖を持ってしまうのです。(小林哲郎・高石恭子・杉原保史.2000)
このような悩みを持つ人は一度自分の状況を客観視すると良いでしょう。
そうすることで、
ー他人はそこまで自分の些細な行動や言動を気にしていないんだ
ー他人は自分のことを評価しようとしているわけじゃないんだ
ー自分で思っているほど、他人から見て自分はネガティブに見えていなんだ
ということに気づくことができますよ!
ここで、自己の客観視を通して人に対する苦手意識を克服した例を紹介します。
例1:
対人恐怖症であった女子大学生Aさんは、人の些細な表情の変化を恐れていました。たとえば、自分が発言した瞬間Bさんの眉間に少しシワが寄ったとか...
そこでカメラで大学の人混みを写真に撮り、それを客観的に見ることで、時間によってでさえ人の表情は簡単に変わることを知ったことが対人恐怖症を克服するきっかけになったのです。(小林哲郎・高石恭子・杉原保史.2000)
(同上)
ではAさんはどのように心境が変化したのでしょうか?
会話する中で、Aさんの友達Bさんは時々表情が曇ったり眉間にしわが寄る。
⇩
Aさん: (え?私のせいかな…。嫌な思いしてるのかな。ドキドキするな…。)
⇩
そこで!
適当に朝と夕方に通りすがりの学生の写真を撮って観察してみる。
⇩
Aさん: (あれ?時間によって人の表情違う??
他人の表情というのは時間などでも簡単に変わるようなものなのかな?
⇩
ということは、人の表情が変わることが”自分のせい”だと気にしすぎているのではないか?)
⇩
Bさんの表情の変化を気にして緊張していたけど、気にしすぎる事はないとわかって緊張が和らいだ。
→つまり、この女子大学生Aさんは自分の主観的な物の見方でしか他人を見ていませんでした。しかし、カメラで通りすがりの学生を適当に撮り客観的な目線に立つ事で、朝と夜で学生たちの顔が違う(朝は元気だけど、夜は疲れているよに見える)ことに気づいたのです。
“自分が言ったことで・・・” など関係なしに人の表情は変わるものであり、それを気にしても意味がないと気づいたのです。
このように状況を客観視することで、
〇自分が他者の評価を気にしすぎていたこと
〇そんな他者からの評価があてにならないこと を知ると、
→人から嫌われるのではないかという恐怖から緊張することがなくなる
→また、客観視することで自分の肯定的な面を発見できる可能性を見出せます。
さらに!!(解決策1と少し被りますが)
客観視することで「見られる」ことだけではなく「見る」ことにも意識する
=相手にも意識を向けることで、相手そのものに関心を持つことができるかもしれません。(小林哲郎・高石恭子・杉原保史, 2000)
自分自身を客観視する、という事にも注目してみましょう。自分を他人としてみてみるのです。
例2:
大学に入学して1ヶ月…
女子大生のAさん、新しくできた友達と食べるお弁当の時間に困っています! 2人でお弁当を食べるも、変な食べ方になっていないか、うまく反応できているか、どこを見て話せばいいかなど緊張して気になって仕方ないのです!
そんな時には…
その状況を撮影させてもらいましょう。
別の友達を呼んで会話には入らず2人の様子を撮ってもらってもいいかもしれません。これを、ビデオフィードバックと呼びます。(清水栄司, 2019)
え?!会話を撮影?!そんなぁ。と思ったあなた。でも、自分自身を客観視することも大切なのです!
そのビデオに映った自分を見返してみると、思っていたほど自分のイメージは悪く映っておらず、食べ方も変ではない!うまく話せている!と気づきます。
自分が思っているほど自分のイメージは悪くない。思い込みにより自己イメージに偏りができてしまっているだけ。
それがわかるだけで、自分がどう見られているのかという不安が軽減し、緊張も和らぐでしょう。
なお、以下の項目に当てはまる方は対人恐怖症の可能性があります。
●人と話す際、過度に緊張してめまいがする
●他人の言動を全て自分に関係づけてしまう
対人恐怖症とは・・・
他人との交流において強い不安や緊張を感じてしまうことです。
ある論文によると、対人恐怖症は年齢が上がるにつれて発症することが多くなるそうです。これは自尊感情や自己評価と関係があり、自尊心や自己評価が低い人ほど対人恐怖心理に陥りやすいと考えられています。
私かもしれない…と悩んでしまっているあなた。
1人で悩まずにまずは近くのカウンセラーや専門家の人に助けを求めてみましょう!(北村聖, n.d., 岡田努.永井撤.(1989).
【まとめ】
このように緊張する主な理由は、自分が周りの人からどう思われているか気にしてしまう公的自己意識と関連していることをお話ししました。その解決策として、
①相手に関心をもつこと
②自己を客観的に見てみること
を挙げました。
この二つの解決策に共通して言えることは、今まで相手にどう思われているかという自分の感情ばかりに気を取られ、「見られる」ことへの意識に集中していたのが相手に関心を持ち、自己を客観視することで自分への意識だけではなく、相手への意識にもベクトルがむくようになるので緊張が和らぐのです。
緊張することは悪いことではなく、対人コミュニケーションにおいて避けては通れない感情です。緊張している自分を受け入れ、相手に関心を向けることで、もっとコミュニケーションが楽しめるようになりますよ!!
<参考文献>
【本】
「大学生がカウンセリングを求めるとき-こころのキャンパスガイド-」小林哲郎・高石恭子・杉原保史 編著, ミネルヴァ書房, 2000
「人前で・本番で あがらない心理学者 ~好きな人・初対面の人・大勢の前・ちょっと改まった場で~」木村 駿 著,日本実業出版社, 1990
「対人不安」M.R.リアティ 著者, 北大路書房, 1990
【web】
清水栄司. (2019). 「人が怖い」「視線が気になる」と感じる社交不安症の症状や治療法
https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_979.html
北村聖 「人前で過度に緊張する・・・社会不安障害」,東京大学医学教育国際協力研究センター
http://www.myclinic.ne.jp/imobile/contents/medicalinfo/gsk/top_mental/mental_004/mdcl_info.html
川島達史 「緊張しない方法とほぐす方法」Direct Communication,
https://www.direct-commu.com/chie/mental/kincho/
【論文】
岡田努.(1999). 「現代大学生の認知された友人関係と自己意識の関連について」『教育心理学研究』一般社団法人 日本教育心理学会, pp22-23
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjep1953/47/4/47_432/_pdf/-char/ja
桜井茂雄.(1991).「小学校高学年生における自己意義の検討」『THE JAPANESE JOURNAL OF EXPERIMENTAL SOCIAL PSYCHOLOGY』日本グループ・ダイナミックス学会,pp85-86
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjesp1971/32/1/32_1_85/_pdf/-char/en
岡田努.永井撤.(1989).「青年期の自己評価と対人恐怖的心性との関連」『心理学研究』公益社団法人,日本心理学会.https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy1926/60/6/60_6_386/_pdf
向井靖子.(2001).「対人不安の生起・維持プロセスの理論モデルに関する展望」.
平松琢弥.(2007).「ビジネスコミュニケーションとは」熊本大学学術リポジトリ.
http://reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/3280/1/BR0095_087-119.pdf